6月 12 2008

点滴の功罪

Published by at 22:32:04 under 消化管

私は基本的に点滴が嫌いです。医者のくせに好き嫌いを言うな、とお叱りを受けるかもしれませんが、必要以上に点滴が大好きな方が多すぎてうんざりさせられるのです。

もちろん、経口摂取ができない場合、下痢や嘔吐、出血などによる急速な循環血液量の減少を補わなければならない場合、効果的にすみやかに薬剤の血中濃度を高める必要がある場合、時間当たりの投与量を一定にすることで血中濃度を一定に保ちたい場合、内服薬には同効果の薬剤がない場合など、必要な場合は点滴を行うことを躊躇しません。

私が外来をしていて今まで嫌だったことは

(1)風邪を引いたので元気が出る点滴をしてほしい

(2)いつもの痛み止めの点滴をしてほしい

(3)いつもしてもらっている栄養の(?)点滴をしてほしい

・・・・・・・

(1)風邪に効く点滴はありません。もちろん熱があれば脱水気味になりますので、水分補給は必要です。しかし、のどが痛くて水も飲めないというのであれば別ですが、経口摂取ができるのであれば薄めのスポーツドリンクなどを多めに飲むことで対応できます。わざわざ点滴をする必要はありません。

(2)経静脈的に投与された薬剤は急速に血中濃度が上がりますが、下がるのも早いので効き目がすぐに切れてしまいます。慢性の疼痛には内服薬を定期的に飲むほうがよいと思います。

(3)なぜか理由もなく週に2回とか3回250~500mlの点滴を定期的にしてもらっているという人がいます。お年寄りに多いです。中身はせいぜいビタミン剤と薄いブドウ糖と電解質で、普通にご飯を食べていて歩いて通院しているのになぜ?と思うのですが・・・

私は頭の固い医者なので、納得のいかない処方はいたしません。たとえ、定期処方だといわれてもお断りすることにしております。中には抵抗するのに疲れて「患者さんの希望」ということで処方しておられる先生もおられるかもしれませんが、私はまだ抵抗しています。

今話題になっていますが、三重県の整形外科のクリニックで点滴を受けた複数の患者さんに腹痛や発熱、嘔吐、ふるえ、白血球減少などの症状が見られ、73歳の女性がひとり亡くなったということです。たいへんお気の毒に思います。点滴の内容は生理食水にノイロトロピン、メチコバールを混注したもので、整形外科の処方としては一般的といえるのではないでしょうか。私は前述したようにこの種の点滴は処方したことがありません。

今日のYOMIURI ONLINEによれば、患者さんの血液からセラチアが検出されたということで、常温で作り置きした点滴バッグ内で繁殖した菌による感染症ではないかということです。

今回の件はこれから調査が進んで原因ももう少し明らかになるでしょう。点滴の混注後常温で保存するというようなことはあってはならないのでこの点は徹底するべきだと思いますが、それとは別に、必要以上に点滴に頼りすぎる現状をもう少し改善したいと考えています。

私は一応消化器外科医なので主張しますが、そもそも消化管の役割を軽く考えている人が多いのではないでしょうか。消化管の内側は細菌や食物残渣や有害な化学物質やらでいっぱいですが、消化管の外側は無菌です。消化管は膜一枚(とはいえ、テニスコート1.5枚分くらいの面積があります)でそういうものから体を守るバリアの役割を果たしています。消化管は重要な免疫機能を担っており、生体防御の最前線ともいえるでしょう

ほんの短期間絶食にするだけで腸管の粘膜は萎縮し、その免疫機能は低下します。容易にこのバリアが破られる事態になり、全身に細菌や毒素がまわり始め、重篤な状態にもなりかねません。経口摂取できるものなら経口摂取するに越したことはないのです。例えば、広範囲熱傷後はいかに速やかに経口摂取を再開するかが重要だといわれています。熱傷は皮膚という外界とのバリアが障害された状態なので、もうひとつの重要なバリアで免疫器官である腸管粘膜を守るためには絶食にしないほうがよいのです。もちろん大量の体液が失われますから急速な体液補充のために点滴は必要ですが、経口摂取との二本立てが基本です。

小腸が好きで消化器外科医になった人間なのでちょっと消化管に肩入れしてしまったかもしれませんが、口から入れられるものは口から、がやはり基本だと思います。必要以上に点滴に頼るべきではありません。

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