6月 11 2008

医師不足は本当か?

何気なく日経メディカル6月号を眺めていたら、医師不足対策の特集をしていました。なるほど、最近テレビでもよくこういう特集が増えています。

私が医学部の学生のときは、これからは医師過剰の時代になるから、君たちはたいへんだ、といわれていました。たかだか10年くらいの間にえらい変わりようです。実際に医学部の定員を減らすとか、医師国家試験の合格者数を制限するとか、そんな話になっていました。平成9年6月の話です。

また、私が平成11年に医師として働き始めた頃に何気なく読んだ雑誌に、女性医師の割合が増加しつつあるので、女性医師は男性医師の8割の労働力とみなせば医学部の定員を減らさなくても相対的に医師の数は減少し、医師過剰解消にもなるというような記事を見つけ、大いに憤慨した記憶もあります。

しかし、それはある意味真実でした。

医師不足にはいろいろな要因があります。私が主に考えているのは以下の二つです。

(1)過酷な勤務や訴訟のリスクに耐えかねて第一線から退くドクターが後を絶たないこと。

(2)医師臨床研修制度の導入により医局による人事がまわらなくなってきたこと。

しかし、女性医師の増加と、それに対応策をとってこなかった旧態然とした体制も医師不足の原因のひとつであると思います。もちろん女性と男性が全く同じように生きていけるとは私も思っていません。ある程度の住み分けというか役割分担のようなものは必要でしょうが、女性が医師として働くことは社会のニーズでもあります。

女性医師の労働力を男性医師の8割とみなすというのは出産と育児の期間を休職せざるをえないという現実があるからでしょう。場合によってはそのままやめてしまう人もいます。実際に私は何人もの女性医師がそのような退き方をしているのを見てきました。その中には、今や減少に歯止めがかからないと問題になっている産婦人科の先生が何人もいました。

そもそも子どもを預けられるところがありません。保育所はだいたい18時か19時までしか預かってくれません。熱が出れば迎えにいかなければなりません。普通の病院勤務を男性医師と同等にフルタイムでこなしながらの育児はきわめて難しいといわざるを得ません。

難しいというより無理です。私の外科医5年間の生活を振り返ると、子持ちで同じように働くなんてはっきり言って無理です。自分ひとりが一日をやり過ごすだけで精一杯です。

大阪厚生年金病院のように子育て支援をきっちりしている病院もありますが、かなりまれです。たいていの病院には院内保育所もなく(看護師用の保育所だけは結構あるが、それ以外の職種は利用できないことが多い)、もちろん病児保育もありません。フレックス勤務や短縮勤務もなく、ただ男性医師と同等の勤務ができないなら来なくていいというようなところの方がはるかに多いのです。

そんな病院に医師が集まるはずがありません。

フレックス勤務や短縮勤務を可能にするために、男性医師に負担をかけるのではなく、病院全体でシステムを変更し、チーム医療をすすめ、ワークシェアリングできるようにすればみんながハッピーになれるはずです。賃金が減ってもかまわないが働きやすい職場を求めているドクターは男女を問わずにいるはずです。

実際に大阪厚生年金病院では女性医師の働く環境を整えたことで、男性医師の超過勤務時間も減少したそうです

一度そこそこの規模の病院には院内保育の設置と、医師の勤務実態をきっちり把握した上でフレックス制や短縮勤務も可能にするように義務化してみてはいかがでしょう。私は以前から首相官邸にメールを送るなどしてきましたが、「小泉総理大臣あてにメールをお送りいただきありがとうございました。いただいたご意見等は、今後の政策立案や執務上の参考とさせていただきます。」などと自動返信と思われるメールが返ってくるだけでした。

医師国家試験合格者の3人に1人は女性となったこの時代に、この人たちが出産や育児で現場を離れたらどうなるかということは前からわかっていたことではありませんか。不作為です、不作為。

日経メディカルの記事によると医学部の定員を増やすとか厚生労働大臣が言っているようですが、これから医師を育成するよりは既にある程度育ったドクターを確保するほうが時間もお金もかからないと思います。少子化対策にもなりますしね。

One response so far

コメント(1) “医師不足は本当か?”

  1. 明石淳on 14 9月 2012 at 13:39:40

    労働には性差があると思います。男性優位の社会だから、医療の現場に、それも持ち込まれます。しかし、女性が勤めやすいような環境をつくることによって、ガンバあって働く女性もいます。例えば、当直させない、子供が母を必要とする時当たり前に休んでもらう、など、です。この結果、女性も自覚し、成長します。
    このように、周囲が理解した結果、お子さんも成人になられ、現在、副院長として、なくてはならない人材になっています。
    もっとも、ご本人の考え・態度も必要ですが。
    私の現役時代のささやかな経験からの考え方を書きました。

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