4月 28 2008

褥創のラップ療法

Published by at 23:28:59 under 少子高齢社会,褥創

今日は3月末まで勤務していた大阪市内の病院で久々の褥創回診をしてきました。私は非常勤ながらこの病院で約3年間褥創委員を務め、褥創回診をして、「ラップ療法」という近年普及しつつある褥創の処置法を指導させていただきました。この治療法は相澤病院の鳥谷部先生が考案されて本も何冊か出版されています。私は4年前に直接相澤病院に見学に行ってきました。

「ラップ」とは食品用ラップのことですから、本来医療用でないものを傷の処置に使用することに抵抗を感じる人もいます。もちろん世の中には「外傷の湿潤療法」のところで示したような様々な創傷被覆材や、他にも多種多様の軟膏などがあります。これらを褥創に対して使うことについては、

(1)褥創の様々な段階に応じて使い分けるのが難しい(→ラップは基本的に褥創のあらゆる局面に使用できる)。

(2)褥創はそもそも治るのに時間がかかり(1年以上かかることもある)、一人の患者さんで何ヶ所も(10ヶ所以上のときもある)褥創があるという場合もあり、高価な被覆材や薬剤を用いるのには限界がある(→食品用ラップはひと巻き100円前後で購入できるし、様々な状態の褥創に貼ることができる)。

ということで実際に処置に当たる現場には厳しい作業です。それに比べてラップ療法のキモは

(1)水道水(霧吹きなど)で洗浄する

(2)周囲をティッシュかガーゼなどでふく

(3)ラップをテープで固定する(このとき、浸出液が適宜外に漏れるようにシルキーポアなどのテープを用いる)

これだけです。しかも、きれいに治っていきます。1年かかることもありますが、少しずつ浅くなって肉が盛って治っていくのを見るのは看護師さんのモチベーションにもつながります。われわれは月に一度褥創委員会を開き、問題症例を検討し、月に一度全ての患者さんの褥創の写真を撮って経過を記録しました。

ラップ療法は簡単で処置が楽ですが、やはり医師の観察と処置は欠かせません。やわらかい壊死組織は自己融解しますが、黒いカチカチの壊死組織は外科的に切除してやらないとその下で炎症が進行して気がついたときには蜂窩織炎から膿瘍形成をきたすなどということがあります。これは従来の被覆材や軟膏による治療でも同じことです。

実際の処置法や注意点などは鳥谷部先生のサイトや著書を参考にしていただくとして、褥創に携わってきた医師として言いたいことはただひとつ「褥創ができるような状態、すなわち寝たきりにならないように心がけましょう」ということです。もちろん、心がけたからといって病気をを必ずしも避けられるわけではありません。しかし、寝たきりにならないような努力をすることである程度はリスクを回避できるのではないかと思うのです。私がアンチエイジングと褥創という一見対極にあるようなことに同時に携わっているのはこういう事情です。

運動不足による筋力や運動能力の低下により転倒しやすくなり、骨粗鬆症により簡単に骨折して寝たきりになります。あるいは脳梗塞や脳出血によっても寝たきりになります。これらは生活習慣の改善により予防可能な疾患です。

褥創は通常、臥床した状態で最も力がかかる仙骨部(お尻の中心の一番出張った骨のところ)や大転子(足の付け根の外側)などにできることが多いのですが、もっと奇妙な部位ににできることもあります。患者さん自身が自分の力で挟み込んで作ってしまうものです。

寝たきりで関節を動かさなければ関節は曲がった状態でカチカチに固まっていきます。これを拘縮といいます。この拘縮の力で患者さん自身の肘関節と肋骨の間、あるいは左右の下腿の骨同士にはさまれた組織が褥創になるという悲しい現象も生じるのです。患者さん本人も気の毒ですが、処置をする医療者側も無力感にさいなまれます。

寝たきりにならないよう、元気なうちからの生活改善、あるいは寝たきりになっても拘縮を起こさないよう関節のリハビリを行うなどの対応(現状では人手もお金も足りません)、そういうのも含めて褥創対策といえるのではないかと考えています。これからの高齢社会にとって、ますます重要な問題だと思います。

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