10月 31 2008
外傷の湿潤療法
外傷はまず「洗浄する」「消毒しない」「乾燥させない」
すりむき傷などの傷に対して以前は消毒をしてガーゼを当てるという処置が一般的でしたが、ガーゼは乾燥して傷にこびりつき、はがすときは痛いし、再度出血するようなこともあります。最近、外傷はまず水道水または生理食塩水でよく洗浄し、傷を乾燥させないような創傷被覆材を貼るという湿潤療法が一般的になりつつあります。
なぜ洗浄するのか
まず、傷が汚れていると細菌の温床になりますから、化膿するリスクが高まります。砂などが入ったままだと刺青のように黒く後々まで色が残る原因になります。水道水などの流水で物理的に汚れを洗い流し、細菌の絶対数を減らすというのがまずは重要なことです。
なぜ消毒をしないのか
消毒薬は確かに細菌にも作用しますが、ヒトの細胞にも作用します。細菌よりヒトの細胞の方が弱いので、傷を治そうとする細胞に大きなダメージを与えてしまうのです。一方、いくら消毒しても細菌数はゼロにはなりませんし、時間がたてばまた増えていきます。それよりは水で洗ってやれば、ヒトの細胞にあまりダメージを与えずに細菌数を限りなく減らすことができます。また、消毒よりは洗浄のほうが痛みもはるかに少ないのです。傷をぬらすと化膿するというのは日本だけの迷信のようです。もちろん汚染された水はいけませんが、日本の水道水はたいへん質がよいので細菌はほとんどゼロに近いと考えてよいでしょう。
なぜ乾燥させないのか
細胞が増えるためには水分や 栄養、成長因子のように細胞を刺激して成長を促すような物質が必要です。傷口が一見ジュクジュクとしてみえるのは、浸出液といってそういった水分や栄養、成長因子などを含んだ液体が組織から出てきているからです。ガーゼを貼って傷が乾いてしまったらこの大事な液体が細胞に作用することができませんから、細胞の増殖が妨げられ、傷の治りが遅くなります。このことは、ヒトの細胞培養をするときに乾燥させると死滅することでも明らかです。傷を乾燥させないために傷に貼るもの(創傷被覆材)として、医療用のもの、薬局などで市販されているものがいくつかあります。
創傷被覆財の種類
(1)薬局などで市販されているもの
ニチバン:ケアリーヴ バイオパッド
ジョンソン・エンド・ジョンソン:キズパワーパッド
などがありますが、私は使用したことがないので使い勝手などはよくわかりません。
(2)医療用のもの
医療用のものは多種多様ですが、そうそう何種類も用意できるものでもありません。
私の使い分けとしては、
受傷当日など出血があるとき
アルギン酸塩被覆材(カルトスタット:Convatecなど)。
スライサーなどで指先を削ぐようにできた傷の止血にも使います。
これらの上から透明のフィルムドレッシングを貼ります。
浅めの皮膚欠損で浸出液が少ないとき
ハイドロコロイド・ドレッシング材(デュオアクティブET:Convatecなど)。
デュオアクティブのシリーズの薄いもので、色も目立ちません。
指などの曲がったところにもなじんで貼りやすいのが便利です。
深い傷で浸出液が多いとき
ウレタンフォーム・ドレッシング材(ハイドロサイト:Smith & Nephewなど)。
浸出液を吸収しながらも創に固着しない被覆材。
浸出液が減って創が浅くなってきたら適宜デュオアクティブETなどに切り替えます。
(3)医薬品ではないもの
食品用ラップを創の被覆に用いることがあります。
しかし、これは目的外使用になるので医師の指導のもとに行うべきだと思います。
褥創(とこずれ)の処置には威力を発揮します。
注意すべきこと
どんな医薬品、治療法にも注意すべきことはあります。咬傷(ヒト、猫、犬にかまれた傷)、深い傷、何かに挟まれたなど圧力を受けた傷、すねの前面の傷は特に化膿しやすいので要注意です。一般に小さな子どもは大人より傷が化膿しやすいようです。
創傷被覆材を長期間貼っていると、浸出液の刺激で周囲の皮膚がかぶれることがあるので1日1回はがして傷を洗って貼り替えることをおすすめします。
治った後は色素沈着しやすいので、露出部位であれば紫外線対策を怠らないようにしましょう。半年くらいは気をつけたほうがよいと思います。
上記内容については別冊PHP2007年11月号に 私のコラムが掲載されています。
なお、夏井 睦(なつい まこと)先生の新しい創傷治療というホームページにはさらに詳しい説明や症例提示がありますので参考にしてください。