Archive for the '医療過誤とは' Category

12月 02 2008

いわゆる割りばし事件

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1999年、4歳の保育園児がのどに割りばしを刺して死亡した事故を巡り、業務上過失致死罪に問われ、東京高裁で無罪が言い渡された医師について、検察当局は上告を断念する方針だそうです。

上告期限は4日ですが、医師の無罪が確定する見通しです。

東京地裁判決では、医師の過失を認定する一方、「死亡との因果関係がない」と無罪を言い渡し、高裁は先月20日CT検査などをすべき注意義務があったとはいえないと過失も否定しています。
1999年と言えば私が医者になった年です。この事件はインパクトのある事件でした。頭蓋底から割りばしのようなものが脳に刺さったとしてもCTでも見つけにくいでしょうし、たとえ発見できても救命は難しいだろうと言われていました。

外科医として子どもの外傷を診ることがありますが、特に頭部打撲の症例において神経学的異常がないかを診るのはとても緊張します。小児科医でも小児外科医でもないので子どもの正常な状態を把握するのは難しいからです。月例や年齢によっても変わりますし。また、はっきり症状を言いませんし、嫌がって暴れたりしてきちんと診察させてくれないこともあります。

4歳の男児のどの奥に何かが刺さったかどうかなど、「刺さったかもしれない」という前情報がない限りなかなか診るところではありません。刺さったものが突き出ていれば別ですが・・・

そもそも小児科の先生のように子どもを上手に診ることができません。

子どもを亡くした親からすると怒りや悲しみの矛先をどこかに向けたい気持ちは理解できます。しかし、一人の医師の医師生命を奪いかねない刑事告訴はそれとは別個に考えるべきでしょう。

1歳以降の子どもの死亡原因の第1位は不慮の事故です。健康な子どもでも一瞬の油断で死んでしまうことがあるわけで、両親を含めて社会全体が子どもに安全な環境づくりをしていく必要があります。

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11月 23 2008

医療崩壊

本日のメインイベントは医療崩壊についての講演でした。京都大学においてこのテーマが語られるのは初めてのことではないかと思います。

一般の方や医師、看護師などの医療関係者の間の認識のずれが浮き彫りになりました。

特に「医療ミス」の定義については医療者側からと患者(の家族)側からみると全く思いが異なります。

医療者が言う医療ミスとは極端にいえば「薬を取り違えた」「手術する左右を間違えた」「薬の量をひとケタ間違えた」ということになります。これらは明らかにミスで申し開きができないものです。

一方、ある患者さんを見たときに複数のアプローチが考えられる場合があります。

虫垂炎とすぐに診断してすぐに手術をする、虫垂炎と診断はするが手術の必要はまだないと考えて入院の上抗生剤などの投与で経過を見る、虫垂炎の可能性があることを患者に伝え、内服の抗生剤を処方して自宅で様子を見るよう伝える、など腹痛の程度(これは医師の触診などによる)や検査所見をどう読むかによって患者さんを診た時点で判断することになります。

様子を見ていても結果的に手術が必要になった場合、これが判断ミスなのかといわれるとそれは医師の想定内であり、ミスではないだろうというのが医師の言い分になります。

しかし、最初の時点で手術が必要と判断してほしいというのが一般の方の気持ちのようです。また、「様子を見た」ために処置が遅れて結果的に重症になってしまったり、極端なことを言えば亡くなってしまったりした場合は医療ミスではないかと考えてしまいます。

そして現在は訴訟という形でしか患者側は真相究明や怒りの感情のやり場がないのが問題ではないかという議論になりました。

こういうイベントをこれからも開催したいと思います。病気じゃない時にも医者の話を聞いてみたい!という人は結構多いのではないかと考えているのですがいかがでしょう?

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8月 29 2008

福島県立大野病院事件続報 「控訴断念」

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本日(8月29日)夕方、福島地検は、8月20日に無罪判決が出た福島県立大野病院事件で、「控訴しないことを決めた」と発表しました。控訴できるわけがありません。癒着胎盤の症例はもともとごくまれで、胎盤剥離を中断して子宮摘出に踏み切れば究明できるという症例を提示できないのですから。

(控訴断念が発表されたので発言しやすくなりました)

「周産期医療の崩壊をくい止める会では8月28日、6873人分〔医療従事者5302人(うち医師3875人看護師331人)、非医療従事者1571人〕の署名を、法務大臣や最高検察庁、福島地検宛てで提出したとのことです。こういう声も一助となって控訴断念につながったのでしょう。
そもそも最初に加藤医師が逮捕、拘留、起訴されたときのマスコミの報道の仕方は医師に批判的であったように記憶しています。警察がわざととらせたとしか思えないような加藤医師が服をかぶって連行される映像をマスコミも何度も流しました。凶悪犯罪の犯人ではないし、その時点ではまだ業務上過失致死と医師法違反の「疑い」でしかなかったのに。加藤医師を貶めようとする意図が見えました。

しかし、普段はおとなしくて反体制的な行動をあまり起こさないドクターたちがこのときばかりは勤務先や科を超えて立ち上がりました。あの衝撃的な映像がドクターたちを震撼させました。いつの日か自分もあんな目にあうのか?必死に治療しても結果が悪ければ逮捕されるのか?

加藤医師を支援する会を立ち上げ、署名やカンパを集めたり活動内容をメーリングリストで報告しあうような体制ができあがりました。各種の学会も声明を出し、加藤医師の逮捕・起訴は日本の医療を衰退させると主張しました。実際、もともと減少していた産科医はさらに減少し、お産を扱わない婦人科や検診業務などに仕事をシフトするドクターも続出したと聞いています。もともと肉体的・精神的に疲弊していたドクターに最後の一撃を与えた事件でした。

マスコミにしょっちゅうたたかれてもおとなしかったドクターたちが今回は思いのほか結束してこの事件に立ち向かったこともあり、マスコミも論調を変え、今回の判決の直前には加藤医師の無罪は当然であるというようなコメントがほとんどでした。この世論の動向を見て、検察も控訴を断念したと思われます。

無罪を勝ち取ることができて本当に良かったと思いますが、この事件は冤罪ではないでしょうか。加藤医師には2年半お疲れ様でしたと申し上げたいと思います。

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8月 22 2008

福島県立大野病院事件続報

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8月20日(水)、福島地方裁判所において産婦人科医の加藤医師に対して、無罪判決が下されました。検察が控訴するかしないかを考慮する期間は8月21日から2週間、つまり9月3日(水)が期限です。
今、周産期医療の崩壊を止める会という団体が中心となり、控訴を断念することを求める署名活動を行なっています。

許されるなら再び地域医療に貢献したいという加藤医師の願いがかないますよう、私も微力ながら署名させていただきました。

今回の件は薬を間違えたとか、投与量を一桁間違えたとかそういう明らかなミスでもないし、カルテを改ざんするような悪質なものでもありませんでした。

死亡原因を究明することと医師個人を刑事告訴することは別個に考えなければならないと思います。手を尽くしたにもかかわらず患者さんが亡くなってしまったという経験は医師として働く以上、避けられないものではないでしょうか。

複数の選択肢の中からひとつの治療方針を選んだ結果が悪かったからといって刑事告訴されるのでは、複数の選択肢を念頭に置かなければならない複雑な症例を引き受けることができなくなります。後から考えれば別の方法が良かったかもしれないと思っても、それは結果論にすぎません。医師個人の責任を問うのではなく、しっかり症例検討をしてカンファランスや研究会、学会発表など、あるいは事故調査委員会でその経験を多くの医師が共有し、今後の医療に貢献させるような形にもっていくべきでしょう。

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8月 20 2008

福島県立大野病院事件

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日本の医療を考える上で無視できないのは福島県立大野病院事件です。福島県立大野病院で平成16年、帝王切開手術を受けた29歳の女性が死亡した事件で、産婦人科の医師が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われたものです。本日福島地方裁判所で無罪判決が出ました。

29歳の女性が生まれたばかりのわが子を残して亡くなったという事実は本当に胸が締めつけられるようなつらい現実です。心よりご冥福をお祈りします。また、残されたご遺族のお気持ちを考えるといたたまれない思いがします。怒りの矛先が医師に向けられるのもやむをえないと思います。亡くなられた女性が命をかけて出産されたお子さんが健やかに成長されることを切に願います。

しかしながら、難しい症例と必死に闘ったにもかかわらず、自分の患者さんを助けることができなかった加藤医師の心中も察するに余りあります。止血しても止血してもとまらなかった出血を必死に止めようとしたのだろうと、私は一外科医としてその絶望的な状況の中の闘いを想像し、つらい気持ちになります。

患者さん側、医師側の双方にとってとても不幸な事件でした。民事訴訟になるのはやむを得ないかもしれませんが、このような場合に逮捕されて刑事告訴されてしまっては医師はリスクの高い症例を引き受けることができなくなります。

最善を尽くしても不幸な結果になることもあります。お産というのは昔から多くの女性が命がけで子どもを産んできたのです。医学が発達した現在でも、若く健康な女性がもっとも生命の危機にさらされる瞬間ではないでしょうか。そんな中、少しでも周産期の母児の死亡率を下げるよう産婦人科の医師も日々尽力されています。

日本産科婦人科学会からもこの判決に関して声明が出されています。

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